逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

12.白黒.7

るり子姉さんの「さりげない」聞き込みによると、ハセガワの誘拐犯は件のチワワおばさんの甥っ子のようだ。 恐らくは首輪こそ着けてはいたが楽しげに散歩している人懐っこい猫を撫でているうちに、病気で泣いてばかりいるお姉ちゃんに見せてやりたいという子…

12.白黒.6

各グループ各々、綿密な計画や役割などもあらかた決まり、 夜食のパスタを食べているときにるり子姉さんが現れた。 「差し入れよ」 そう言ってまだホカホカと温かく湯気を出すたい焼きをどかんとテーブルに載せた。 「パスタ、私の分も残ってる?」 「はぁー…

12.白黒.5

もう一方のハセガワの行方。こちらは京念、ひなこ、そして私の担当。 ひなこも情報を仕入れてきていた。実は近郊の小学校で飼育されていたウサギの耳に、 同じような矢が刺さっていたという事件がまた起こったということである。 こちらの方はほんの少し耳が…

12.白黒.4

「ったく……嫌な時代だわ」 「ほんとにねぇ」 「あ、そういえば表通りのね……」 二人の会話が値上げの激しい野菜の話に移ったのを機に、私はさり気なくその場から離れた。 子猫に刺さっていた吹き矢は私のバッグに入れてある。 そして今聞いたヤブのウマイ先生…

12.白黒.3

「失礼ですけど……」 私はその人に声を掛けた。 「その猫ちゃん、産まれたときからずっといるわけじゃないんですよね?」 突然会話に割り込んだ私に二人のおばさんはいささか驚いたようだったが、 何度か待合室で見かける顔でもあり笑顔で 「そうなのよ。その…

12.白黒.2

へなへなと椅子に座り込んだのは、 私たちはもちろん、残った京念とボスも同様だった。 「それにしても……子どものイタズラにしては質が悪い」 ボスが吐き出すように呟き、 「同感です。絶対に許さない」 と、いつも笑顔を絶やさないふたばが氷のように冷たい…

12.白黒.1

早咲きの水仙を摘みに庭に出ていたふたばが、 真一文字に口元を結んで事務所へ走って帰ってきてはタオルをかき集め、 私とひなこに 「柔らかなタオルをなるべくたくさん! ケガしてる猫を運びます!」 と一言告げるとまた飛び出していった。その後を最所と京…

11.鬼も内.13

「ちょっとやりすぎたかな」と首をすくめながら店内に戻り、 私たちは皆の年の数の豆を分配した。 もちろん猫たちにもきな粉にしてキャットフードに振りかけたし、 差し出された豆の多さにうんざり顔のボスには砂糖を絡めたお菓子にした。 薄い桜色に染まっ…

11.鬼も内.12

さて節分の夜。 習わし通り柊の枝に鰯の頭を刺し、炒り豆を用意した私たちだったが、 いよいよ豆まきを始めようとしたときにひなこがぽつりと呟いた。 「追われた鬼さん、どうなるんでしょうか? 外は雪が残ってるし……寒くないでしょうかね……」 「鬼パンツし…

11.鬼も内.11

「この作品の銘はご存知ですか?」 私のその言葉に彼女は意外そうな顔をした。 「銘……?」 「銘なんてあったの? こんな名もない人のものに?」 「奥様のお父上はきっとたくさんの……色々な想い。 それは焦りだったり口惜しさだったり妬みだったり――そんな人…