逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

2017-01-01から1年間の記事一覧

夜咄9

それからしばらくして 「おほん!」 と咳払いをしたのは鬼太郎会長である。 「ささ、静粛に静粛に……」 「さて、本日はお日柄も誠に目出度く、皆々様方におかれましては益々ご清栄の程、おん、おめでとうござりまする」「また、本日は賑々しくご来場を賜り、…

夜咄8

さて、続く会食は黒猫家を借り切り、襖を外して大広間で行われる。真っ白な割烹着を持参していた私たちがそれを持って、廊下を移動しようとすると先ほどの見知らぬ客たちが足音に気付いてか、急にわざとらしく咳払いをしてさっと三方に別れた。 なんとなく、…

夜咄7

歩き出した私たちを見て 「あらあら、もっと歩幅を小さく!」「ほれほれ、肩をいからせない!」 などと、ドアを出るまで大騒ぎだったが、黒猫家に到着する頃にはようやくなんとか歩き方も様になってきた。 「雪輪ですね。よくお似合いですよ」 京念が微笑ん…

夜咄6

そこに待っていたのは佐月さん、雪女おばさん、やまんばばあさまと、後は白いエプロンをした美容師さんが三人、そしてみんなにこにこと手招きをしている。 「え? なんですか?」 狐につままれた表情の私たちに 「さ、お支度お支度」 佐月さんは楽しげにそう…

夜咄5

その日は早朝から薄っすら雪模様となり、空気がぴんと張り詰めていたが昼頃にはすべての塵芥をも露払いされたかのような美しい青空が拡がった。 逢摩堂は『本日お休みしております』とドアに張り紙をしている。 「この季節、忙しいからせめて昼過ぎまで店を…

夜咄4

それもこれも、ほんの少しずつお互いにぽつりぽつりと語ったうちからわかったことで、ボスを始め、私たち全員がお互いにお互いのことを無理に聞き出そう、こじ開けようというような想いは微塵もなかった。 私たちは相変わらずみいこさん、ひなこちゃん、ふた…

夜咄3

逢摩堂は今や知る人ぞ知る有名店である。もちろん『逢魔時堂』としての都市伝説も大いにそのきっかけとなったのだが。確かな品揃え、丁寧な接客、そして自然に店内に溶け込んでいる愛くるしい猫たちと、これだけ材料が揃えば誰もが一度は覗いてみたいと考え…

夜咄2

「ほい、狐に化かされたかの?」 「ここはどこじゃ?」 こんこんと眠り続けること二昼夜。ぽかんの目を開けたボスに、私もひなこもふたばもどんなに安心したことだったろうか。 寝不足の、そしてすっぴんの三人を見て 「心配をかけたみたいじゃの。すまんす…

夜咄

気が付けばもうすぐ師走だ。 年齢とともに時の流れは早くなる。子供の頃は夏休みが終わると、冬休みなんて永遠に来ないんじゃないかと思われるくらいゆっくりしていたというのに。 ここに来てからは何だかとくに早いような気がするなぁ、と思わず独り言をこ…