5.塀のむこう.4
ひなこが立ち止まったのは例のお稲荷さんの鳥居の前で、その鳥居から後方を覗き込んでいる。
若干息を弾ませた私だったが、
一〇〇メートルにも満たない距離だったのでまだ八歳と七歳について来ることができた。
「ここです、この後ろ。
このお稲荷さんの後ろに山に続く道が確かあったと思います。
たしか、子どもの頃におばあちゃんと一度来てるんです――あ、やっぱりそうだ。
こっちです」
ひなこは神社を囲む瑞垣の後方にいて手招きをした。
なるほど、今まで全く気にも留めなかったが、神社のそばには細い通路らしきものがある。
そこから瑞垣に沿って後ろに回ると確かにそこには山の方に行く細い道があった。
「へえ、知らなかったねぇ」
そう感心はしたのだがその道の向こうにあるのは竹やぶだ。
「行ってみます?」
「そうね、朝のウオーキングコースにちょうどいいね」
と、答えたものの内心ここは冬限定コースだな、
夏はやぶ蚊がいっぱいいそうだと現実的なことを考えた私だった。
小道はちょうど商店街の裏通りのようになっている。
ここで私たちは新たな大発見をした。
それは全くのシャッター通りと勝手に思い込み、
同時に誰も住んでいないとも思い込んでいたこの通りに人の生活の気配があったのだ。
人が三人並んで通るのがやっと、と思われるこの道は、
その人達の生活道になっているらしく、
また表の商店街からは伺い知る由もないその生活の一端があちこちに感じられた。
きょろきょろと物珍しげに眺めては見ているが、
生活の匂いは確かにするのだが相変わらず人の姿は見えない。
なんだか不思議な異次元のような世界だな、とふと思った。
忘れられた、というより忘れて欲しいと思っているように感じられるそんな世界なのだ。
見なかったことにしてほしい、知らなかったことにしてほしい――
もしかしたらここにいる住民たちはそんな思いで迷い込んできたような私たちを息を潜めて家の中から見つめているのだろうか、
とホラー映画のような発想すら湧いた。
道は緩やかに角を曲がる。
「ここを曲がった辺りがちょうど逢摩堂の後ろになりますよね」
「あ、猫さんたちだ!」
ふたばが嬉しそうに囁いた。
「この前の猫さんたちかなぁ」
ひなこは座り込み、おいでおいで――と声をかけている。
あ、そうだ――と気付いた私はバッグの中から今朝買ったばかりのカリカリの袋を開けた。
何がいいのかわからなかったので、
とりあえず小袋がいくつか入ったちょっと高めのものを選んでいた。
「高級品だよ~」
猫たちにそう説明し、そっと近くの中ぶりの石の上に並べた。
つづく
本日もご覧いただき、ありがとうございます!
卓球女子団体銅メダル!すごいです!
夜中に中継やってて思わず最後まで見ちゃいました~。
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前作「属」はこちらから→「属」第一話 誕生日
「逢魔時堂」第一話はこちらから↓