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逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.9

「父は窯元の次男坊でした。あなた、ご存知でしょう? 
ああいう世界では一子相伝――長男が名跡を継ぎます。
たとえ長男より才能があっても次男や三男がその名を継承することはありません。
父はずっと冷や飯食いだった。
でも私は父の作るものが好きだった。
伯父が作ったものよりずっとずっと」
 
「私にとってはこちらの方が本物だった」
 
 夫人はそう言って目の前にある茶碗を見つめた。
 
「でもうちは貧しかった。私は伯父の家が羨ましかったわ」
 
「そう、羨ましくて妬ましくて仕方がなかった。
うちに無いものをみんな持ってたわ。富も名声もみんな。
うちはね、貧乏人の子沢山。私の下には妹が二人いた。
私の上には姉もね」
 
 夫人の声が震えた。平蔵を撫でていた手が止まる。
 
「母が死んだわ。父を内職で支えていた母だった。
苦労して苦労して、働いて働いていつも疲れてて。
病院へも行かず。もちろん寝てるところなんて見たこともない。
亡くなって布団に寝かされていて初めて寝顔見たわ。
あなたわかる? 貧しいってこんなことよ。
豊かになる者、どんなに頑張っても貧しさから逃げられない者。
始めっから勝負はついてんの」
 
 キッと私を睨みつける目が血走っている。
平蔵のごろごろという声が止まり、背中の毛が逆立った。
 
 そのまま一声鋭く鳴くと、さっと膝から飛び降り、走り去っていく。
 
「毛だらけよ! なんとかしなさい!」
 
「申し訳ありません。ただいま」
 
 粘着シートで彼女の膝の猫の毛を綺麗に拭った。
その様子を彼女は放心したように眺めていたのだった。
 
 しばらくの沈黙が店内を包んでいた。また、時は言葉を形にしたようだった。
 
「子どもがいなかった伯父夫婦は私を養女にしたわ。私はむしろ喜んだ。これで惨めな生活から逃れられるってね。
でもあの人たちが欲しかったのはタダ働きの女中だったの」
 
「朝から晩まで働かされて優しい言葉の一つもなく。
そしてひょこんと二人に子どもが産まれた。男の子だったわ」
 
 
つづく
 
 

 

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