逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

夜咄4

 それもこれも、ほんの少しずつお互いにぽつりぽつりと語ったうちからわかったことで、ボスを始め、私たち全員がお互いにお互いのことを無理に聞き出そう、こじ開けようというような想いは微塵もなかった。


 私たちは相変わらずみいこさん、ひなこちゃん、ふたばちゃんで、本名も時々忘れそうになるくらいだったのだ。


「さて、夜咄にしようかの」


 ボスは楽しそうに私を見た。


「ちょいと寒いかもしれんが、これも引き締まっていいかの」
「あれと……これと、そうじゃな……あの道具も今回お披露目しようかの。みいこさんやふたちゃん、ひなちゃんのお許しが出るのなら」


「え?! 私たちの?」


 怪訝な顔になった私に、


「ほら、咲良の道具じゃよ。正式にあんたたちに引き継がせることもこの際はっきりしておこうと思うての。すまんが、二人も呼んできてくれんか」


 はいはい、と私は身軽に二人を呼びに行った。


 確かにあの恐ろしいまでの価値があるという、そして咲良さんの身分をも示すものという、あの三つの茶碗は今もボスと咲良さんの部屋にあり、一応は私たちのものということにはなっているが、私たち自身にはその意識はまったくなく、ボスの律儀さをむしろ微笑ましく思い、私たちは口を揃えて――どうぞ、お好きなように――と承諾した。


「そうかそうか、お好きにしてもいいか。それを聞いて一安心じゃ」


 ボスは嬉しそうに私たちを見つめ、咲良さんの絵に向かって


「聞いたかの。よかったよかった」


 と微笑んでいた。

 

 

「今よろしいですか?」


 最所と京念がドアの向こうから声を掛けてきた。


「ああ、そうそう。先生方が来るの。待っとったわい」


 その声をきっかけに私は事務所へ戻り、ひなこは店先へ、ふたばはおやつのお汁粉作りのために台所へ立った。


 おやつの匂いを嗅ぎつけて、もうすぐるり子姉さんも現れることだろう。逢摩堂の明け暮れは今日も申し分なく平和だった。

 

 

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