玉響6
「そんなことはない!」
私たちが叫ぼうとしたとき、会長がふと顔を上げた。
「ん?」
怪訝な顔で私たちを見る。
「え?」
「今誰かわしの背中を撫でたかの?」
「いえ……」
会長の椅子は私たちと少し離れた場所にあり、もちろん後ろには誰もいない。虚ろな表情を浮かべたまま視線は咲良さんの絵に留まった。
咲良さんの絵を見た会長は急に目を見開いたかと思えば目をこすり始めた。
「逢摩――いや、逢摩さんよ。いよいよわしもヤキが回ったかの。今――今咲良さんがわしを見て優しく頷いたように見えた」
その言葉を聞いた私たちも一斉に絵を見た。絵から私たちも咲良さんのメッセージというのか、想いのようなものを受け取ったような気がした。
絵の中の咲良さんの表情は温かく、慈愛に満ちており、私たちの心を奮い立たせるものだった。
それから二、三日後、緊急に旧町内会の会議が咲良さんの絵の前で開催されることになり、ここ最近のことの次第が説明されることとなった。
どの範囲まで話すかについては私たちはもちろん、会長、そして佐月さんとマスターも交えての話し合いが繰り返されたことは言うまでもない。情報には必要なものと不必要なものとがあるのだ。
初めのうちこそ旧町内会の面々は怯えたり打ちひしがれたりしていたが、会長が咲良さんからのメッセージのくだりを話したことで全員がまっすぐ顔を上げた。
なによりも咲良さんが、そして娘さんたちがもう許してくれているのだという思いが皆の心を勇気づけたのだった。
そして会議を進めていくうちに口々に――わしらは戦うぞ! そんな奴らに負けてなるものか!――と決意をみなぎらせて帰ったあと、私とひなこ、そしてふたばは父に話したいことがあった。それは初めて咲良さんの絵を見たときのことである。
「この人は恋をしているのねって。この人は、この絵を描いた人と想い合っているのねって」
咲良さんの絵を見て、私たちはこう思ったのだ、とボスにそう話した。
それを聞いたボスは顔をくしゃくしゃに歪め、肩を震わせて号泣し始めた。それはまるで永年の想いを絞り出すように。
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