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逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.3

「まあ、そうでございましたか。ようこそお越しくださいました」
 
 とりあえずへりくだってみる。するとその客はほんの少し態度が和らいだようだ。
 
「覚えておきなさい。それで奥さんは? 内藤の家内が来たと言いなさい。
まったく、気が利かないわね。あなたじゃ話しにならないわ」
 
 うーん……困ったものである。この「奥さん」とは誰を指しているのだろう。
この手の客に逆らいたくはないのだが、この場合は
 
「逢摩堂には奥さんという人はおりません」
 
 あるいは
 
「その奥さんには会ったことがありません」
 
 あるいは
 
「多分あなた様が奥さんと思っていらっしゃる方は(佐月さんであれば)よその奥さんです」
 
 もっとあるいは
 
「その奥さんらしき人は絵の中にいらっしゃいます」
 
 他にもあるだろうか。思わず黙り込んでしまった私にその客はいらいらした様子で
 
「いないの!? 留守なの!? 仕方ないわね。じゃあご主人は?」
 
「申し訳ございません。主も本日は所用で留守にしておりまして……」
 
「まったくっ! 何をしてるの、この店は。
責任者もおらず気の利かない店員だけ置いて。
社員教育さえしてないなんて! 
仕方がない。また来るわ。一体いつならいるの?」
 
「明日の昼頃でしたら主が戻っているはずです。申し訳ございません」
 
 そう言って頭を低く下げる。
 
 ぷりぷりと怒りながら出て行った客に、低頭したまましばらく見送る。
 
「アカンベー」をしたいのは山々なのだが、この手の客は出た途端必ずと言っていいほど振り返る。
頃合いを見図り、頭を上げると案の定その客は戸口の外で私の様子を窺っていた。
にっこり微笑み、もう一度頭を下げ、客がその後完全に通りを出ていったのを見届けてから溜め息をつき、
 
「二人とも、もういいよぉ」
 
 と声を掛けた。
 
 その声を合図にしたかのようにひなことふたばが暖簾の裏から飛び出してきた。
 
「みいこさーーーん!!」
 
 二人して抱きついてくる。
 
「ごめんなさい、何も援護できなくて」
 
 ひなこに至っては泣き声になっている。
 
「塩撒きましょ!!」
 
 ふたばの怒りは収まりそうにない。
 
「まあまあまあ」私は二人をなだめ、事務所へ戻った。
 
 ひなこのパソコンの画面には内藤久矢の資料が出ていた。
 
「え?」
 
 その画面を横目に見たのだが思わず目を凝らした。
この人、見覚えがある。たしか――たしか以前、見るからに水商売系の派手な化粧の若い娘を連れて来店したはずだ。
 
つづく
 
 

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