夜咄
気が付けばもうすぐ師走だ。
年齢とともに時の流れは早くなる。子供の頃は夏休みが終わると、冬休みなんて永遠に来ないんじゃないかと思われるくらいゆっくりしていたというのに。
ここに来てからは何だかとくに早いような気がするなぁ、と思わず独り言をこぼすと先ほどから私の様子を窺っていた白猫の小雪が「なあん」と応えた。
「小雪もそう思う? あんたがここに来てから一年、私が来てからほぼ二年だよ」
そう話しかけながら柔らかな胸毛を撫でてやる。猫は嬉しそうに喉を鳴らした。
この子は後ろ足が少し不自由だ。軽く体を傾げて歩く。それ以外は通り猫一番の美猫だ。真っ白な体毛とエメラルド色の大きな目。そして真っ直ぐな長い尻尾に優しい声とピンクの肉球。
ここに出入りする、通称『薔薇の紳士』こと最所と京念はこの子にメロメロで、『塀のむこう』の平蔵や『黒猫家』のハセガワが、小雪と猫語でおしゃべりしている様子に内心激しく嫉妬しているらしいのを、私たちはほとんど呆れて見ている。確かこの二人は猫が大の苦手であったはずなのだが。
今や彼らの膝、足元には必ず猫たちが側にいる。彼らのデスクやポケットには猫たちの為におやつが常に用意されており、メタボ気味になりつつあるレギュラー店番猫たちのダイエットメニューに頭を悩ませているふたばやひなこの目を盗んではこっそり与えているのを私は知っている。
そうだ、あれからの日々を少し話さなくてはならない。
神かくしにあったように突然消え、そしてその後無事に私たちのもとに戻ってきたハセガワのこと。そして小雪の足を不自由にした吹き矢の犯人のこと。その犯人をまんまとおびき寄せ、
「まったく、とことん痛快だけどお話にもならないくらいヤンチャで無鉄砲。子供じみた方法よ!」
と、るり子姉さんが笑いを噛み殺した渋面で「厳重注意!」と厳かに言い渡した方法で成敗した、分別ざかりの大人たちの集団。
しかし作戦が終了した夜の宴会で、小気味よく盃を重ねていたのは赤毛、つけまつ毛、ヒョウ柄コートの長身の女性だったと記憶している。
ここまで書き進めていると、隣の部屋から
「みいこさーん、いるかい?」
とのんびりしたボスの声が聞こえてきた。はぁーい、今行きますよ、と答える私より先に小雪が飛んで行く。小雪が一番好きなのは回復時ずっと懐に入れて温めてくれたボスなのも私は知っている。
「ちょっと足のギアが入らなくてな」
「あらら、どうしました? そっと立ち上がってみましょうか。肩に掴まってくださいな」
「すまんね」
ボスはそう言って恐る恐る立ち上がり、うんうん、大丈夫だ、と笑った。
「年をとるとなかなか治りも遅いわい。すまんこっちゃった」
一年があっという間だった原因の一つは、ボスが倒れたこともあるのだ。元来、丈夫な体質で、スポーツも得意、体調も常々ドクターチェックを怠らなかったはずなのに、ふいに倒れた。
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