逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

10.神かくし.5

 驚いたのは私たちだった。今まで何があっても裏へは行かないボスだったのだ。
それは多分咲良さんとの思い出がありすぎて辛すぎるのだろうと諒解していたからで、戸惑う私たちに「前の通りは頼むよ」と声を掛け、
棚の扉をするりと開けて出ていった姿を見送って私たちも雪かきを始めることにした。
 
 シャベルで雪をひとすくいする度にハセガワとの距離が縮まる気がする。
 
 黙々とシャッター通りの道を作っていると、表通りから一人、また一人とシャベルを持って人々が加わってきた。
会長がいる、副会長もいる。
雪女おばさんも山姥ばあさままでよたよたと雪をすくっていた。
 
 そして開いたシャッターからは一斉に猫たちが飛び出してきて綺麗に雪が片付けられた通りで追いかけっこして遊んでいる。
どんどん道ができていく有様を見て改めて人の力をしみじみ思う私たちだった。
 
 シャッター通りが綺麗に開かれていき、次は表通りの方も私たちは開けることにした。
 
「いやいや、こっちはわしらでやるから」
 
 と、みんなは遠慮したけれど、
 
「バンパイア三人娘の底力を甘く見ないでくださいよ!」
 
 ふたばが笑った。
 
 そうなのだ。『十歳』の私でさえ『娘』に分類されても不思議ではないくらい表通りの面々はみんな老人なのだ。
 
 一仕事終えて戻ってきたらしい最所が加わり、ほどなくして京念が加わり、るりこ姉さんが加わり、
塀の後方からはボスやマスターも合流して表通りも裏通りも綺麗に道が整えられた頃、佐月さんがにこにこ笑いながら
 
「さあ、みなさーん! 温かいお汁粉ができてますよぉ!」
 
 と声を掛けた。
 
 逢摩堂の、いつもは固く閉ざされているレンガ塀の木戸が大きく開かれ、ボスやマスター、そして佐月さんがみんなを招き入れている。
裏庭は綺麗にラッセルされ、テーブルが持ち出されており、
湯気が上がった大きな鍋やおむすびやサンドイッチ、コーヒー、お茶が並んでいる。
 
 それを見てみんなは大歓声をあげた。
中には慌てて家へ戻り、焼いた干物やら煮物、香の物を持ってくる人までいる。
 
 酒屋のおじさんは一升瓶を持ってきたし、山姥ばあさまは秘蔵のまたたび酒を。
雪女おばさんは得意の甘酒を持ってきた。
 
 みんなが車座になって大宴会になった。
その回りを猫たちが嬉しそうに走り回っている。
気が付けばボスと会長が隣り合って座っていた。
 
 一瞬どうなることかと心配した私たちだったが、二人は黙ってコップ酒をカチリ、と合わせ、互いに肩を軽く叩きあった。
 
 そして心配気に見守る私たちに親指を突き出してみせた。
永年のわだかまりが解けたのだろうか。時が二人の争いを鎮めたのだろうか。
 
つづく
 
 

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