玉響4
「やっぱり、それほどの価値があるんだ……」
私たちは件の茶碗が納められた古ぼけた箱を見つめた。
価値があるとは聞かされていたものの、それがどれほどのものなのかを実感する機会があまりなかった。
しかし国際的に狙われているということを聞かされた以上は、その価値を改めて感じざるを得ない。
「それだけではないかもしれん。実は……」
その話を聞いていたボスが口を開いた。
「まだあるのじゃ。三つ揃って価値がある、と咲良は言うた。それがどういう意味かわからず、咲良に尋ねたが昔話だ、と笑っておった。その頃は骨董品やら焼き物やらには興味がなかったしあまりに気にも留めんかったがの。――次にその話になったのは、咲良がひどく体調を崩したことがあっての、そのときのことじゃった。元々体が丈夫とはいえんのじゃが高熱にうかされて、わしは気が気じゃなかった。そのときに聞いたのじゃ」
「咲良、話してもええかの?」
ボスが絵の中の咲良さんに問いかけた。咲良さんは絵の中だが、その問いかけはまるで本当にそばにいるかのようなそれで、絵の中の彼女が頷いたような気配を私たちも感じた。
「――もし私が死んだら、この茶碗は別々に、別々にしてほしい。単なる古ぼけた茶碗として売ってもいい。あげてもいい。捨ててもいい。――ただ、三つ揃いのものとしては終わりにしてほしい、と。なんでじゃ? と聞くとあれは必死の目をして言うておった」
「これは祖国に伝わる言い伝えだと。この茶碗が祖国を救う宝の在り処を示す地図になっておるのだ、とわしは聞いた。――そんな言い伝えまで残っておるものをバラバラにしてええのか、と聞くと、それでいいのだと。そのために随分と無駄な争いやらたくさんの血が流れたのだから、もういいのだ、と。この茶碗を、茶碗として気に入ってくれた人が持ってほしい。そんな風にどこかに埋もれればいいのだ、と言うた。――この茶碗についてわしの知っとることはそれだけじゃ」
ボスのその話を聞いてしばらくの沈黙が訪れた。その価値もわかった上でこの茶碗を狙っているのだろう。そうだとしたらるり子姉さんが言うとおり、実に厄介な相手だ。そのようなことに考えを巡らせていると隣でまだ気になることがある、という顔をしたふたばが口を開いた。
「あの、あの――えっと、じゃあひなこ、ふたば、みいこの謎は? これにもなにかメッセージがあるの?」
「あん?――あれか。あれは咲良に懐いとった近所の野良猫の名前じゃよ。――ほれ、咲良の膝におる黒猫がみいこじゃ。みいこが産んだ猫がひなことふたば。で、その孫の孫の孫の……ぐらいがハセガワと平蔵じゃ」
先程までの重々しい雰囲気とは打って変わってあっけらかんとボスが答えた。
正直私たちはまた椅子からずり落ちそうな気分になった。まさか咲良さんの膝にいる黒猫が私たちの名前のルーツだったとは、と思って件の黒猫に目をやるとなんだか得意げな表情をしているような気がした。
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