逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

ひいふうみい5

「さてさて、どう思う?」


 ボスは私たちを見る。私たちも答えが出ない。誠に申し分のない縁組なのだ。学生時代にラグビー部でも活躍していたという青年は笑顔の爽やかな好男子でもある。


「うーん……」


 ひなこが腕組みをする。


「みいこさん。みいこ姉さん、どう思います?」


「世間的に悪くない話ではある……よね」


 そう言って私たちはもう一度爽やかラグビー男子の写真を見る。


「ていうか、ふたちゃんってどんなのが好みなのかなぁ」


 そう呟くとひなこも、わからないですよねぇ、と相槌を打ち、ボスも頷いていた。


「映画の好みははっきりしとるがの」


「そうそう、任侠ものとファンタジー、特にハリーポッター!」


 そう言って笑いだしたひなこが


「そういえばスネイプ先生みたいな人がいいなぁって言ってました」


 と膝を叩く。


 私たちはふたばの好みにのけぞり、ボスは


「マグルではあかんかの」


 と手近にあったペンを一振りした。ありがたいことに何も起こらなかったが。


 たしかに「逢魔時堂」の一員になるときは少し外れた神経の持ち主でないと無理かもな、という思いが脳裏に浮かんだのだけれども。


 苦労が多かった今までのふたばにとっては、平凡で幸福な人生をこれからは過ごしてもらいたいと強く思う私たちなのだった。


「まあ、わしから一度話してみよう」


 ボスはよっこらしょっと立ち上がり


「夕食、楽しみにしとるよ」


 と咲良さんの部屋へ行ってしまい、残されたひなこと私はしばらく事務所で黙って座り込んでいた。もうすっかり部屋の中は暗い。


「……ずーっとこんなのがいいな」


 ひなこがぽつりと呟いた。


「ボスがいて、みいこさんやふたちゃんがいて、小雪やへいちゃん、はあちゃんや沢山の猫さん――それから最所さんや京念さん、るり子姉さんや会長や副会長に通りのみんな。もちろん佐月さんとマスター。ずっとずっとこんなのがいいな」


「笑ったり泣いたりドキドキしたりハラハラしたり……こんな風に、今までみたいに。こんな風に」


「私、もうどこにも行きたくないな」


 ひなこの語尾が震えていた。


「ひなちゃん……」


 私は思わずひなこの肩を抱き寄せた。痛いほど気持ちがわかる。想いは一緒だった。

 

 

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