語り継ぐもの2
「いいのぉ」
しげしげと作品を見るボスにひなこは「単なる道具ですよ」と恥ずかしがったが、
「ひなちゃん、みんな道具として作られるんじゃよ。初めっから名品と呼ばれるものは無いんじゃないかの。作り手の目的は元々はそういうもんじゃないかの」
と語ったボスの言葉を私は深く胸にしまった。
確かに後世まで残るような品であっても、作り手が初めからそのことを意図していただろうか。
その時の土の状態やら釉薬の調合、天候や湿度、火の勢いやら実に様々な条件がまるで神からの贈り物のように重なって結果が出るのではないだろうか。元々は誰かのために作りたい、その人が便利に、そして喜んでくれるように――という至極単純な目的だったに違いないのだ。
「さてと……」
咲良さんに断って部屋から持ち出してきた茶碗を再び見つめた。
「雪月華、か」
その銘はボスがつけたものであり、茶碗の内部にある見事な斑紋からイメージしたのだといつか語っていた。
たしかに雪の結晶のようにも、月の青い光のようにも、花びらが散っているようにも見えるそれには魂が奪われるような妖しげな美しさを放っている。
しかし三つの茶碗を並べ替えたり裏返したり、あるいは文様を模写してそれを重ね合わせてみたりしても、文字はおろか図形らしきものも浮かんでは来ない。
ここのところずっと古書やパソコンで故事やら伝説の類を調べているのだが、手がかりは五里霧中の状態なのである。
ふと思いついて各々に水を注いでみた。水を入れた状態で光が屈折してなにか新しい文様が出てこないとも限らない。
私たち三人はこの茶碗に関して二つの信念を持っている。それは咲良さんにも確認済みだ。
一つは私たち以上にこの茶碗の持ち主として相応しい者が現れたら当然の行いとして譲り渡すこと。そしてもう一つは本来の道具としての目的を全うさせることだ。この二つがはっきりと定まっているので、当然それ以外の目的でこの茶碗に近付く者は認めることができないという単純明快なものだった。
だからと言ってはなんだが、以前のように触れるのもおっかなびっくりの状態からはかなり脱却しており、大切なものであるという意識は変わらないのだが、もっと気楽に、身近なものとして触れられるようになった。
いわば亡くなった母の形見のような思いとでも言うのだろうか。血の交わりがあるものとして扱ってあげたいと気持ちで向き合うということなのだった。
さて、水を注いだ茶碗に光を当ててみたり、あるいは斜めにしてみたりとまたもや実験を繰り返してみたがやはりヒントらしきものは見付けることができなかった。
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