四月馬鹿.4
ボスがその箱を受け取り、開いて「これですじゃ」とごく自然に手渡そうとしてその手が止まった。
「ん?」
急いで残りの二つの箱も開く。
「ん?」
「んん?」
ボスのその一連の動きの間に柊氏は最所に開かれたそれを見て
「すばらしい……」
と息を呑んでいた。
「まさに至高! 人類が生んだ奇跡の宝物ですな。眼福とはこのことです。これは守らなければならない! 俄然、ますますやる気になりました」
柊氏は熱を帯びた声であとの二つも飽かず眺めている。それをよそにボスが私たちの顔を見る。その視線に頷き、目で詫びた。そのまま視線を事務所の隅に移動させると視線を追ったボスが目を丸くした。
そこには猫たちのドライフードが山盛りに入っている三つの茶碗があって、さらにそれには各々に可愛い猫のシールが貼られていたからだ。
親子の間で交わされたその一連の動きに気付いたものは誰もおらず、柊氏はもちろんのこと最所、京念、るり子姉さんも
「いやあ、しげしげと見させていただくと本当に素晴らしい」
と感嘆の声しきりである。
その声を聞きながら私たちは曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
***
「こら! ひなこ、ふたば、みいこ、ここに座らっしゃい!」
「一体全体なにを企んどる?」
あの後の黒猫家での会食も一通り和やかに進み、最所と京念は柊氏をホテルまで送っていった。るり子姉さんはとっくに仕事に戻っている。
咲良さんの部屋で私たちはすごすごと三人並んで座った。
「父さん、ひなちゃんとふたちゃんは悪くないんです。私が企んだことで――」
「違う、私たちも大賛成したんだから! 同じことだから!」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるボスは、ふと咲良さんを見た。
「もしかして――咲良も知っとるんか?」
絵の中の咲良さんが渋々頷いた。
「――小雪も。女同士の秘密で」
「まったく。男親はつまらんことじゃ」
嘆息するボスにとりあえず事情を打ち明ける。
「もし――もし万が一、なにかが、誰かがこの茶碗を狙ってうちに来たとしてもしばらくは時間稼ぎにならないかなぁって」
「むこうは本物を見たこと無いわけだし」
「それにひなちゃんの茶碗、びっくりするくらい本物そっくりで」
ボスもしげしげと改めてひなこが焼いた茶碗を吟味している。
「本当に。ひなちゃん、見事なもんじゃ。わし以外誰も気付けんかもしれんな」
と感嘆の声を口にしたが、慌てて頭を振り、
「こんなことをして。もしお前さんたちがそのせいで危ない目に合わないとも限らん。年寄りをあまりハラハラさせないでおくれ。とんだ跳ねっ返りの娘どもだわい、のう、咲良。え? お前さんも賛成だというのか。まったく、うちのお転婆たちときたら。わし一人が蚊帳の外かの。つまらん」
どうもボスの愚痴の本音はそこにあったらしく、私たちは神妙に頭を下げながらも口元が緩んで仕方がない。
「で、どうするつもりじゃ」
「そこからは……父さんや皆さんのお知恵拝借です」
◆
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