逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

1.逢摩堂.2

 そもそも私たち三人は面識がなかった。昨日初めて会ったのだ。
 
 二日前、私は街頭で配られている求人募集のフリーペーパーを、バスの時間待ちで立ち寄ったバーガーショップでコーヒーを飲みながらなんとはなしに、そして時間潰しに見ていた。
 
 その一項に「急募! 逢摩堂――古物商。事務、簡単な業務全般――営業時間十時から十八時、休憩時間あり。時給一〇〇〇円、能力に応じて昇給あり、残業手当あり、委細面談――」とある。
 
 電話連絡の上、履歴書持参――場所を簡単に記した所を見てみると、中心街からやや離れた場所とは言うものの交通機関も便利な場所だった。そしてよく見ると応募の締切が今日の日付になっている。
 魔が差した……としか言いようが無い。
 
 そもそも骨董品に特別興味を持っているわけでもない。
ただ以前の仕事で時折出向いていた京都やら高山あたりの洒落たアンティークの店を思い出してこの店に興味を持ってしまったのだ。
 
 まあダメ元で電話だけはしてみよう。
今日ここでこれが目に留まったのも何かの縁……。
永年勤務した会社を早期退職したのは、昔気質の社長の後を継いだ新社長の方針がどうにも肌に合わなかったからだった。
 
 ゆとり世代の申し子とも言うべきジュニア社長のやることなすことが、
いちいち私の癇の虫を刺激した。
 
 キャプテンが変わった船――しかも行き先も乗客へのサービスレベルも変える、
というのであればさっさと下船するに限る。
会社を船に例えて言うならばそんな所で、
私はこれ以上会社に留まっていつか迎えるであろうトラブルに巻き込まれるのは真っ平ごめんだった。
 
 女一人、贅沢もせず両親が残してくれた家に住んで
読書くらいの趣味しかないともあれば、
退職金と合わせ、まあ五、六年は遊んでいても暮らしてはいけるだろう。
 
 しかしこればかりは補充もしてやらないと無くなるばかりであるし、
今更またスーツとハイヒールの生活に戻るのも正直言って疲れてしまっていた。
 
 どこかお気楽なパートはないものか。
一日のんびりと……できればなるべく閑古鳥が鳴いているような、
そんな寂れたお店の電話番だとか……。
 
 
 

 

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