8.おおつごもりの客.3
「今のお話ではお客様のお探しのお店がうちとは言い難いのですけれど……」
私はにこやかにお茶を勧めた。
「ただ、古物商の常として思い出のお品をその思い出とともにご購入させていただくということでは少し当たっているかもしれません。
ただ、その金額はこちらで決めさせていただいておりますが――」
その客は両手を組み、じろじろと私を頭から足元まで何度か見ると
「そのお品ってやつ――やっぱり要るわけ?」
「そうですね、お品を買い上げるのが私どもの商売ですので」
「ふうん」
またもや客はじろじろと見る。
「ねえ、おばさん。ここ、明日もやってんの?」
おばさん――。確かにそれは否定しないが……明日は大晦日だ。
私たちは店を早仕舞いして塀のむこうでカウントダウン・パーティをしようと計画していたし、
かの商栄会のお歴々からは度肝を抜く企画があるからぜひ五人でいらっしゃいと再三誘われていた。
逢摩堂の主人は一晩しみじみと第二倉庫で過ごすらしい。
ドア越しでも咲良さんの側で新年を迎えるのだと、
ちょっと胸が痛くなるような話をしていた。
明日か……しかし記念すべき第一号の来店客である。
私はにこりと笑って答えた。
「はい、では明日お待ちしております」
そしてさり気なく釘を刺した。
「逢魔時を過ぎますと、店が閉まってしまいますので――お気を付けて」
客はぎょっとしたようだった。
私は平然と会釈した。無表情に口角だけ上げて。
「じゃあ、じゃあ明日――明日来るから!」
あたふたと出て行った客を見送り、
事務所に戻るとあとの三人は上げた親指を突き出して笑いを噛み殺していた。
その笑いの原因の一つはひなこが見つけ出したネットの投稿である。
現代都市伝説「妖しの美女が招く狐火の店」という陳腐なタイトルで、
なんでもその店は魔物が出る時刻しか開いておらず、
昼間はどんなに探してもまるで狐に化かされたかのように見つからないという。
そしてその店は思い出を買うということをしており、それがどんなものであっても高額で買い上げてくれるのだが、
嘘の話や誰かの話を盗んだりするとたちまちそれがバレてしまい、
受け取った金は店を出た途端油揚げに変化するそうで――とあり、
この辺りになると私たちも逢摩堂の主人も腹を抱えて笑っていた。
ひなこのナレーションは尚も続き、
「なお、この店を取り仕切っているのは年齢不詳の三人の美女だそうで、
どうもバラの花を常食にしているとのことである。
実際に彼女らが食するための花束で顔を隠すようにして
店内に消えた怪しい二人連れの人物を目撃したという報告もあり……」
ふたばはひいひいと涙を流し、手を叩いて笑い転げた。
「何はともあれ観光資源に乏しく、今後何か新しい企画に取り組むことが急務とされている我が県においては一体この店がどこにあるのかを突き止め、
そしてそれが町おこし、地域おこしの目玉商品になり得るのではないかと有識者は語っている」
私たちは顔を見合わせた。
どうにも胡散臭い記事である。「作為的に」きな臭い。
何者かが仕掛けたっぽい臭がする。
とりあえず明日はあの二人にくれぐれもバラの花束なんぞ抱えてくるなと連絡しておかなくては、と固く決心した。今はとりあえずそれが急務であろう。
つづく
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