逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

11.鬼も内.13

「ちょっとやりすぎたかな」と首をすくめながら店内に戻り、
私たちは皆の年の数の豆を分配した。
 
 もちろん猫たちにもきな粉にしてキャットフードに振りかけたし、
差し出された豆の多さにうんざり顔のボスには砂糖を絡めたお菓子にした。
 
 薄い桜色に染まった豆菓子は殊の外おいしそうで、ボスは大喜びしていそいそと咲良さんの元へも持っていったのだが、
第二倉庫の入口あたりで「うぉ!?」と声がした。
 
「どうしましたかぁ?」
 
 書き物やらパソコンでの作業やら片付けやらをしながら私たちはのんびりと声を掛けたのだが、
しばらく静かになり、またもや「うぉぉー!」と声がする。
 
 さすがに気に掛かり、
 
「ちょっと! ボスどうしたんですか!?」
 
 と今度は急いで駆けつけると部屋の真ん中でボスが突っ立っている。
お皿は抱えたままであった。
 
「どうしたっていう……」
 
 私も途中で声が止まった。
 
 なんとボスの持つ皿の中にある豆菓子がどんどん、みるみる減っていくのだ。
一粒ずつ、あるいは一掴み――。
私とボスは顔を見合わせた。
ひなことふたばもその様子にぽかんと口を開けている。
 
「なにこれ!?」
 
「一体全体……」
 
「どういうこと!?」
 
 私たちがそう叫ぶやいなや皿に残る最後の一粒が消え、少し間を開けて私の足を誰かがつついた。
思わず悲鳴をあげてしゃがみ込むと姿は見えないが小さな声が聞こえた。
 
「ぼく……食べられなかったの」
 
「――はい!?」
 
 姿こそ見えないものの、
どうやら子どもか何かがそこにいるようだ。
 
「大人がみぃーんな食べちゃった。
ぼく、食べられなかったの」
 
「……お豆のこと?」
 
「うん。食べたいよ」
 
「どれくらい作ろうか?」
 
 ふたばとひなこもその場にしゃがみこみ、
その見えない何者かに小声で尋ねる。
 
「みんなまだ食べたいって……。
あともうちょっと。
あと……やっぱり、いーっぱい」
 
 私たちはその某のリクエストを受け、厨房へ帰って残っていた豆を全部お菓子に作り変えた。
そして大きな皿に盛り付け、または小さな皿に盛り付けては床の所々に置いた。
 
 ぽりぽり、ばりばり。そしてクスクスといった笑い声が聞こえてくる。
くすくす笑いはその内にもっともっと嬉しそうな声に変わり、
部屋中がくっくっという幸せそうな声に包まれた。
 
 そしてふっと空気が変わり、また元の静寂に戻ったのだが私たちの心はそのまま暖かく、
そして無くなったはずの豆菓子はそのまま残っていて正直途方に暮れた。
 
 もっとも、豆菓子はそのまま雪庭に撒き、
「鬼さんたちのおすそ分けだよ!」と声を掛けると翌朝には全て無くなっていた。
そして私たちは空に向かってもう一言「またおいでねぇ!」と添えた。
 
 それから程なくして春一番が吹き、雪は跡形もなく消えて季節は大きな暦をめくった。
 
 
つづく
 
 
 

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