逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

Who Killed Cock Robin?

 こうしてすったもんだの末、ふたばと最所は結婚式を挙げた。


 家族のみ立ち会った厳粛な挙式の後は、咲良さんの庭で流行りのガーデンウェデイングパーティーが行われた。


「誰でもウェルカム!」


 という二人の希望のまま、それはそれは賑やかな祝宴となった。中には「たぶんコスプレイベントなのだろう」と最初から最後まで信じて疑わなかった一般客も多くいたに違いない。


「入場料はいくらか?」「食べ物のチケットはどこに売っている?」と、受付をしていた私とひなこは質問攻めにあったし、それが全て無料だと理解してもらうのにも一苦労した。ましてやこれが結婚式だと説明するのはもっと重労働で、しまいには『お気持ちをお入れください』と無人の産直売り場のように箱を設置し、受付業務を放置した程である。


 そして二人はみんなに見送られ、ハネムーンへ旅立った。帰ってくる頃には『塀のむこう』の隣に新居が完成しているはずだ。


 ボスが「餞に」と居住を勧めた豪邸を二人は声を揃えて優しく、だがきっぱりと分不相応です、と断り、小さな可愛い家を建てた。やはり竹の中に生えているような気持ちのいい家だ。


 そこからふたばは今まで通り逢摩堂に通うことにしているし、当然最所も今まで通り現れるに違いないので、日々の明け暮れにはほとんど変化はないはずだ。


 花嫁の父であるボスは言わないといけないかのようにグズグズと、あるいはネチネチと最所に嫌味を言うのだが、そのなだめ方は十分私もひなこも、そして小雪も心得ている。


 何よりもボス自身がそんなプロセス一つ一つに幸せを噛み締めていることを私たちはわかっている。

 

 二人を送り出したあとはさすがに疲れ果て、ボスと私とひなこ、そして身内同然の働きぶりで支えてくれた京念、るり子姉さんの五人はぐったりと事務所に座り込んでいた。


 そういえば京念のほうはというと、なんでも面倒なクライアントからの依頼で出張に次ぐ出張だったそうで


「大変永らくのご無沙汰、申し訳ありませんでした」


 と日焼けした顔で事務所に現れたのだが、この急転直下のできごとを一通り聞いてただただ驚きを隠せずにいた。この人もこのあたりの機微に疎いところがあり、事の次第を聞いている間は驚きのリアクションの連発だったので、同世代としてはかなりほっとした。

 

 

 

 

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ひいふうみい11

「ふーたちゃん! ひーなちゃん!」


 やはりふたばはそこにいて、その側にひなこがいた。二人は子どものように足を投げ出し座っている。夜空を見上げながら座っている。


「いーれて!」


 そう言って私もふたばの隣に座る。


「風邪ひくぞ、ふたりとも」


 三人で毛布をすっぽり被る。しばらくしてふたばがぽつりと言った。


「父さんたちは?」


「うん――たぶん事務所で大反省中」
「きっと今ごろ青菜に塩」
「ていうか、まだグズグズ小声でやりあってるかも」


 事務所に残された二人のその後が容易に目に浮かぶ。


「さむーい!」


 ふたばが私とひなこにしがみついた。


「さむーい!!」


 私たちもふたばを抱きしめる。


「寒いけど暖かーい!」


 ふたばがそう笑い出すと


「お決まりのホームドラマかマンガみたいだね」


 ひなこがそう言って笑う。


「そうそ、こんなうまい具合にいかないよねって突っ込みながら観てたやつね」
「でもさあ、本当はどこかで憧れてなかった?」
「そう、こんなにうまいこと行くはずないよって重々思いながら、こんな風になればいいのになぁって」


 私たちはそんなことを話した後、しばらく黙り込んだ。


 こんな風になるわけない、こんな幸せあるわけない。いつの間にそう学習したのだろう。いつの間にそう思い定めてきたのだろう。誰が教え込んだというのだろう。


「逢魔時堂マジックかな」
「咲良さんマジックかな……」


 ふたばがそうつぶやいた。


「では」


 私は魔法使いのように重々しく言った。


「いざ帰りなん、我が家へ。すべて魔法が解けぬうち」


 そして厳かに命令した。


「ふたばよ。とっとと素直になるがよい」


 その言葉にひなこも続いた。


「ふたば、ここでは一目散に幸せになるしか方法がないぞよ」


 黙って私たちの言葉を聞いていたふたばが


「姉ちゃんたち〜」


 と子どものように泣き出した。

 

 

「ああ、やっぱりここにいたのね」


 柔らかな声が降ってきた。佐月さんだ。


「私もいーれて」


 その声とともに毛布がまたふわりとかかる。


「押しくらまんじゅう、押されて――笑え。だわね」


 そう言って佐月さんがコロコロ笑う。


「ふーたちゃん」


 佐月さんがふたばの頭を優しく撫でる。


「どうしてここが?」


「ふふ、最所先生がね、前に話してらしたの。あなたをここで見かけた。一人で泣いてたって」


 佐月さんはそっと言葉を重ねた。


「ふたばさんは、いつもあんな風に一人で泣いていたのかなぁって話ながら男泣きしてた」
「そしてね、あなたが逢摩さんの娘になる前になぜ打ち明けなかったんだろうってずっと後悔してた」
「逢摩さんはそのこともわかっていて――だからわざと先生に意地悪してらっしゃるのよ。そんなこと取るに足らないことなんだってね。ふたちゃんはふたちゃんだから変わらない。そしてそれが一番大切なことなんだって。そのことをきっと逢摩さんは言いたいんだと思うのよ」
「そしてそれはね、きっと若い時の自分の過ちと重ねているんだと思うのよ」


 佐月さんの言葉にふたばは「はい」と素直に頷いていた。


「でも、私なんかで本当にいいんでしょうか……」


「では本人に直接聞いてみなさい」


 佐月さんは毛布を剥ぎ取った。


「さっさとお父さんと最所さんのところへ行きなさい。あなたを心から大切に思ってる人たちが生きた心地もなく帰りを待ち焦がれてるわ」


 佐月さんが優しくふたばの手を取る。


「さあ、行きますよ」


 ふたばは泣きじゃくりながら佐月さんにもたれて歩く。そんな二人を冴えた月の光が照らしている。


 そして私とひなこも手を繋いで二人の後を歩く。私たちには帰る、帰れる場所があるのだ。待ってくれている人がいるのだ。

 

 

 

 

 

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ひいふうみい10

「私は! 私はこう見えて剣道二段です!」


 最所が顔を真っ赤にして叫んだ。


「ほう、そうじゃったかい」


 ボスはそう言いながら件の釣書をガサゴソと引っ張り出した。


「あ、惜しいの。ラグビー男は空手三段じゃ」


「私は、私はこう見えて一応弁護士です!」


「ふん、それがどうした? むこうは腕のいい外科医じゃぞ」


「憚りながら私の家は代々続く造り酒屋です」


「ふたばは下戸じゃ。知らんのか。むこうは大地主じゃ。松茸の山もあるそうじゃ。ふたばは松茸ご飯が大好物じゃぞ」


「そんなこと知ってますよ! ふたばさんは和食が好きなんですから! 作るのもお上手なんですから! カシスソーダで酔っ払うんですから! だけど頑固で可愛い人なんですから! 私よく知ってますから!」


「ええい! お前みたいな新参者にふたばの良さがわかってたまるか! お前なんかにゃもったいないわ!」


「出会ったのは同じ日です! あんたに新参者呼ばわりする権利はない!」


 この馬鹿馬鹿しい会話は文字にすれば一見平和そうなのだが、この男たちは声を限りに怒鳴り合っているのだ。いや、もともと地声が大きいボスの方は普段よりちょっと頑張っている程度なのだが、最所の方は明らかにかなり息が上がっている。


 ひなこが私をつついた。目で「まだ続けさせますか?」と訴えてきた。私も目で「そろそろやめさせる?」と応じる。


 しかし私たちが頷きあい、やめさせるために口を開けようとしたとき


「ええーい! やめんかい!! ご近所迷惑じゃ!!」


 とふたばが通り中に響いたのではないかと思われる声で怒鳴った。


 そしてドアを叩きつけるように閉め、奮然と外へ飛び出していく。


「ちょ、ちょっと待ってふたちゃん!!」


 その背中をひなこが慌てて追いかける。


「ここにいなさい! じっとしてろ! ここから動くな! ったく、しょうがない!」


 私は二人の男に命じ、急いで毛布を持ってその後を追う。行き先はわかっている。稲荷神社の境内だ。考え事をしたいとき、なんだか心がモヤモヤするときはいつもここに来るのだと以前から聞いていた。大きなケヤキのご神木の下で葉っぱ越しに青い空や星を見ていると落ち着くのだと笑っていた。

 


 幼い日々を過ごした児童養護施設の庭にも大きな樹があって――嫌なことや悲しいことがあったらいっつもその下に座って空を見上げていたんですよ、とさり気なく話したふたばの背中をそっと撫でながら、買い物帰りに三人でアイスキャンディを食べたのだ。

 

 

 

 

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ひいふうみい9

「他の皆さんは?」


「ああ、今ちょうどリビングでレッスン中なんですよ」


 その答えに「じゃ、皆さんによろしく」とまた出ていこうとしたのだが、ドアの前にはるり子姉さんが立ちふさがっていて動こうとしない。


 仕方なくデスクに座り、なぁーん、と擦り寄ってきた小雪を抱き寄せ、大きな溜め息をついた。


 あの――と私が声を掛ける前に、るり子姉さんがドカンと机を叩いた。


「ああ、鬱陶しい! てめえ金玉つけてんだろうがよ! 当たる前に砕けてどうするってんだよ!」


 そこまで言ってまた机を叩くるり子姉さん。


「みいこさんが困り果てていらっしゃるじゃねえかよ! 堅気の姐さんを泣かせんじゃねえ!!」
「――三回目は机じゃねえぞ」


 いえ、そこまで、あの、追い込まなくても……と大いに思ったのだが、机を叩く音はリビングルームにまで響いたらしく、


「ちょっと! みいこさん、大丈夫ですか?」
「なに!? なに!? どうしたっていうんですか?」
「どうした? どうした?」


 と一団体が事務所に飛び込んできた。


「このバカが!」


 最所にそうセリフを投げつけ、るり子姉さんは事務所のドアの前で


「四の五の言わず、さっさと白状しな」


 と一声残してまたもや疾風のごとく去っていった。

 

「はあ」


 溜息をついたのはひなこである。


「なんかよくわからないけど、かっこいいですねえ……」


 去っていく背中を全員で見送る。


「おや、先生、えらいご無沙汰じゃったの?」


 ボスが惚けた声で言った。


「はいっ」


 その声になぜか直立不動になる最所。その横で小雪はすとんと机から降り、ボスに抱っこをせがんだ。


「おお、よしよし」


 ボスは目を細め、小雪を膝に乗せて頭を撫で始めた。


小雪や、お前の二本足のあんちゃんは頼りにならんのう。やっぱりラグビー男子のほうがよいのかの、ふたばのお相手は」


 と独り言のように話を続ける。


ラグビー男だったら一直線にタックルしてくるかの?」


 お見合い話を一通り聞かされていたふたばが黙って最所を見た。


「頭でっかちで屁理屈だけの男は文武の武はからっきしみたいだしのぉ。いやいや、かわいい末娘のことだて、頭が痛いわ。のう、小雪


「――おや、先生、まだおったんかい。何の用じゃ?」

 

 

 

 

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ひいふうみい8

 しかし、ないことはない。むしろ大いに有り得ることだ。そしてそれが正しいのであれば、ここのところのふたばのイライラがなんとなくわからなくもない。なんだ、そういうことか。


 ぷりぷりと怒りながら店先に去っていったふたばを見送り、


「ひなちゃん、気付いてた?」


 と小声で尋ねると、軽く頷いたひなこは――なんとなぁーく、ですけどね――と言って笑った。


「でもそれはそれとして、京念先生はどういうことなのかな?」


 ひなこは心配そうに呟き、パソコンの画面に向かって仕事を始めた。


 一人になった私は小雪に、もしかして小雪も気付いてた? と頭を撫でると猫は毛繕いの手を休め、なぁーご、と頷いた。私は大いにくさることとなった。

 

 

***

 

 

 その夜に現れたるり子姉さんにも、後の三人が席を外したときにさり気なく尋ねてみると、くすくすと笑いながら


「気付かなかった? まあそこがみいこさんらしいけどね」


 と言われ、ますます面食らった。その言葉に続けて


「私が思うに、本人たちもちょっと前まで気付いてなかったんじゃないかしら。ガキんちょがそのまんま大人になったみたいな人たちだし。もっとも、ここはちょっと世間とは違う感覚の人たちばかりだしね」


 という答えが返ってきた。


「放っておいていいのかしらね」


「そうねぇ、いい年した大人たちなんだけどね。ボスは気がついてるんでしょ?」


「うん、多分」


「じゃあなんとかなりますよ」


 そう言って親指を立てたるり子姉さんだったが、


「ただ、みきくんあのお義父さんに言えるのかしらねぇ……怖いからね、ボスは」


 と独り言のように呟き、ふたちゃんも怖いからねぇ、と肩をすくめていた。

 

「それはそうと、ただかずちゃんはどうしてんの?」


 コーヒーに口をつけ、京念のことを尋ねる。


「それが、同じように現れないんです」


「ふうん」


 るり子姉さんは目を細めた。


「ちょいとそっちのほうが私は気になるわね」


 そう呟いて私と目が合うと、なぜか慌てたように


「私あっちの趣味はないわよ!」


 と言っていた。そっち、あっち、全くこの人達の会話は難しい。こっちは未だに頭がこんがらがっているというのに。思わず嘆息が出る私を見ていたるり子姉さんは


「待ってて。とにかくみきくん、引っ張ってくるわよ。ったく、手が焼けるってば」


 そう言って残りのコーヒーを飲み干し、疾風のように立ち去ったのだが、一時間もしないうちに最所を連れて事務所へと戻ってきた。


 事務所に入ってくるときに思い切りるり子姉さんに蹴飛ばされたらしく、かなりつんのめって登場した最所は、私が一人でいるのを見てちょっと拍子抜けの表情になったのだが、とりあえず――ご無沙汰してます――と一礼する。

 

 ◆

 

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ひいふうみい7

 それから一週間経ったが最所と京念は顔を出さない。


 はじめのうちこそ体調が悪くて歩けないのじゃないだろうか、もしかしたら餓死寸前になっていないかと気を揉んだのだが、様子を見に行ってくれたるり子姉さんは


「放っておきなさい。ったく、なに考えてんだか。そのうち現れるわよ」


 と言うばかりだし、仕事の方は障りなく活動もしているらしいのでとりあえずは安心しておくこととする。


「お? わしは大好きじゃが今夜もおじやかえ?」


「え? あ、はい」


 歯切れの悪い返事をしたのはふたばで、


「ごめんなさい、ついついご飯を余らせてしまいまして……」


 そうなのだ。大食漢の二人がいないと食事の残り物が多くなってしまう。はじめから少なめに、とここのところ気をつけてはいるのだが「お腹ぺこぺこでーす!」という声がいつ聞こえてもいいように――と思うのは習い性になっているらしい。


 そんな折にボスの大好物であるリンゴのピザをバスケットに入れて佐月さんが現れた。


「うまいのぉ、相変わらず。絶品じゃの」


 はじめこそピザにリンゴという意外な取り合わせに恐る恐る手を出した私たちも、今はこの美味しさの虜になっており、最所、京念、るり子姉さんもこのピザの大ファンだ。


「今日はライバルがおらんから多めに食えるわい」


 ボスが嬉しそうに五枚目の一片に手を伸ばしかけたときは、さすがに私が待ったをかけた。


「そういえば」


 佐月さんが笑いながらコーヒーをボスのカップに注ぎながら口を開いた。


「先生方は?」


「それが、最近現れないんですよね」
「一体どうしたんでしょう」


 ふたばとひなこが心配そうに言う。その様子に佐月さんが笑いを噛み殺しながら――やっぱり、ですか?――と言ったので、ふたばが


「え、なにかご存知なんですか?」


 と勢い込んで尋ねた。


「え? まあ……最所先生のほうは、ね」


 それを聞いていたボスはにやりと笑い、佐月さんに目配せをした。


「そろそろ年寄りの出番かの?」


「そうですね。ちょっとそのほうがいいかもしれないですね」


 二人はそう言って意味深に笑いあった。


「なんですかぁ?! ったく、いやーな感じ」


 ふたばがそう言って膨れている。


「天知る、神知る、猫も知る、かの。げにげに不可思議は人の心じゃということかの」


「わけがわかりません! それを言うなら天知る、神知る、我知る、子知る、ですよ」


「ほほう、相変わらずふたちゃんは詳しいのぉ。ま、我知るが知らんやつばかりでこの世はややっこしくなるんじゃよ。なあ、佐月さん」


 それを聞いて佐月さんが吹き出した。


「本当に。見ていてじれったくなりますね」


 そう言って笑いながら去っていく佐月さんを見送りながら、私もようやくもしかしたら、とある考えが浮かんだ。

 


 もしかしたら、そういうことか?――ええ? そういうことなのか? スネイプ先生と最所に共通点など一つもないではないか。このあたりの機微は自慢にもならないが全く疎いのだ。

 

 

 

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ひいふうみい6

 ここで、この場所で私たちは運命のように出会い、そして心の中の欠けていたものを見つけたのだ。


 それは紛れもなく私たちが欲していたものであり、一生手に入らないものと半ば諦めていたものでもあった。


「ボスに――お父さんにそう言おうね。ふたちゃんもきっと同じこと言うと思う。三人でそう言おうね。どっこにも行かない! ここにずっといるからねって。ダメだって言ってもいるからねってね」


 そう言って私たちは微笑みあった。


 店の方からカラン、とドアベルの音がして


「ただいまー! お腹すきましたー!」


 とふたばの陽気な声が響く。しまった、まだ夕食の準備に取り掛かってもいない。顔を見合わせた私たちは


「しかたない、今日はパスタとサラダだ」


 と頷き合い、厨房へ向かった。

 

 

***

 

 

「おおう、今日はスパゲッチィかの」


 質素な食事なのだが、嬉しそうにボスが目を細めながら食卓の上を眺めた。


「わしゃぁこのケチャップまみれのなんちゅうかかんちゅうか――ナポリタンちゅうんか、これが好きでなぁ」


 ボスはそう言うや否やずるずると音を立てて啜った。相変わらず年を感じさせぬ健啖ぶりである。


「お? 先生めずらしい。食わんのか?」


 ボスが手を止めて最所を見た。その声につられて私たちも同じように最所を見た。いつもであれば人一倍のスピードで、誰よりも早く――おかわり!――と叫ぶ最所が、フォークにパスタを巻きつけたままぼーっと考え事をしている。ふたばの、今日再上映していたというハリー・ポッターのスネイプ先生の話で、ひとしきり盛り上がった後だった。


「どうした? 腹でも痛いのかえ?」


「いえ、大丈夫です。でも、ちょっと用事を思い出しました。大変申し訳無いのですが、今日はこれで失礼致します」


 最所がそう言って悄然と立ち上がる。


「お大事に!」


 とりあえず口々に声を掛ける。どちらかというとノリと食欲だけはやたらある最所が元気が無いといえば、食あたりくらいしか考えられず、


「大丈夫ですか? あまりひどいときは連絡してくださいね」


 と送り出した私たちであった。その様子に京念もそそくさと食べ終えると――私も今日はこれで――と帰っていく。


 いつもは「本日これで店じまいです!」とほぼ強引に追い出す私たちなので、今日の二人の行動に首を傾げた。


「一体、どうしたんでしょうねぇ」


 デザートにふたばのお土産を食べながら呟くと


「まあ、放っておけばいいわい」


 そう言って笑いながら二つ目のシュークリームに伸ばしかけたボスの手を、ひなこが
「駄目です。カロリーオーバーです」
 と払っていた。


 そしてその後、私たちは――断固として嫁には行かない。ずっとこのままが希望である――とボスに伝え、ボスは思わず泣き笑いしたのだった。

 

 

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