逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

ひいふうみい9

「他の皆さんは?」


「ああ、今ちょうどリビングでレッスン中なんですよ」


 その答えに「じゃ、皆さんによろしく」とまた出ていこうとしたのだが、ドアの前にはるり子姉さんが立ちふさがっていて動こうとしない。


 仕方なくデスクに座り、なぁーん、と擦り寄ってきた小雪を抱き寄せ、大きな溜め息をついた。


 あの――と私が声を掛ける前に、るり子姉さんがドカンと机を叩いた。


「ああ、鬱陶しい! てめえ金玉つけてんだろうがよ! 当たる前に砕けてどうするってんだよ!」


 そこまで言ってまた机を叩くるり子姉さん。


「みいこさんが困り果てていらっしゃるじゃねえかよ! 堅気の姐さんを泣かせんじゃねえ!!」
「――三回目は机じゃねえぞ」


 いえ、そこまで、あの、追い込まなくても……と大いに思ったのだが、机を叩く音はリビングルームにまで響いたらしく、


「ちょっと! みいこさん、大丈夫ですか?」
「なに!? なに!? どうしたっていうんですか?」
「どうした? どうした?」


 と一団体が事務所に飛び込んできた。


「このバカが!」


 最所にそうセリフを投げつけ、るり子姉さんは事務所のドアの前で


「四の五の言わず、さっさと白状しな」


 と一声残してまたもや疾風のごとく去っていった。

 

「はあ」


 溜息をついたのはひなこである。


「なんかよくわからないけど、かっこいいですねえ……」


 去っていく背中を全員で見送る。


「おや、先生、えらいご無沙汰じゃったの?」


 ボスが惚けた声で言った。


「はいっ」


 その声になぜか直立不動になる最所。その横で小雪はすとんと机から降り、ボスに抱っこをせがんだ。


「おお、よしよし」


 ボスは目を細め、小雪を膝に乗せて頭を撫で始めた。


小雪や、お前の二本足のあんちゃんは頼りにならんのう。やっぱりラグビー男子のほうがよいのかの、ふたばのお相手は」


 と独り言のように話を続ける。


ラグビー男だったら一直線にタックルしてくるかの?」


 お見合い話を一通り聞かされていたふたばが黙って最所を見た。


「頭でっかちで屁理屈だけの男は文武の武はからっきしみたいだしのぉ。いやいや、かわいい末娘のことだて、頭が痛いわ。のう、小雪


「――おや、先生、まだおったんかい。何の用じゃ?」

 

 

 

 

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