逢魔時堂

逢魔時(おうまがとき)は昼と夜が移り変わる時刻。人の目が宵闇の暗さに順応する前の状態にある時間帯のことを言うのだそうだ。闇に慣れると人の目は宵闇の暗さに慣れ、暗闇の中でも物の形が区別できるようになる。それは、人の心の闇もまた。

ひいふうみい8

 しかし、ないことはない。むしろ大いに有り得ることだ。そしてそれが正しいのであれば、ここのところのふたばのイライラがなんとなくわからなくもない。なんだ、そういうことか。


 ぷりぷりと怒りながら店先に去っていったふたばを見送り、


「ひなちゃん、気付いてた?」


 と小声で尋ねると、軽く頷いたひなこは――なんとなぁーく、ですけどね――と言って笑った。


「でもそれはそれとして、京念先生はどういうことなのかな?」


 ひなこは心配そうに呟き、パソコンの画面に向かって仕事を始めた。


 一人になった私は小雪に、もしかして小雪も気付いてた? と頭を撫でると猫は毛繕いの手を休め、なぁーご、と頷いた。私は大いにくさることとなった。

 

 

***

 

 

 その夜に現れたるり子姉さんにも、後の三人が席を外したときにさり気なく尋ねてみると、くすくすと笑いながら


「気付かなかった? まあそこがみいこさんらしいけどね」


 と言われ、ますます面食らった。その言葉に続けて


「私が思うに、本人たちもちょっと前まで気付いてなかったんじゃないかしら。ガキんちょがそのまんま大人になったみたいな人たちだし。もっとも、ここはちょっと世間とは違う感覚の人たちばかりだしね」


 という答えが返ってきた。


「放っておいていいのかしらね」


「そうねぇ、いい年した大人たちなんだけどね。ボスは気がついてるんでしょ?」


「うん、多分」


「じゃあなんとかなりますよ」


 そう言って親指を立てたるり子姉さんだったが、


「ただ、みきくんあのお義父さんに言えるのかしらねぇ……怖いからね、ボスは」


 と独り言のように呟き、ふたちゃんも怖いからねぇ、と肩をすくめていた。

 

「それはそうと、ただかずちゃんはどうしてんの?」


 コーヒーに口をつけ、京念のことを尋ねる。


「それが、同じように現れないんです」


「ふうん」


 るり子姉さんは目を細めた。


「ちょいとそっちのほうが私は気になるわね」


 そう呟いて私と目が合うと、なぜか慌てたように


「私あっちの趣味はないわよ!」


 と言っていた。そっち、あっち、全くこの人達の会話は難しい。こっちは未だに頭がこんがらがっているというのに。思わず嘆息が出る私を見ていたるり子姉さんは


「待ってて。とにかくみきくん、引っ張ってくるわよ。ったく、手が焼けるってば」


 そう言って残りのコーヒーを飲み干し、疾風のように立ち去ったのだが、一時間もしないうちに最所を連れて事務所へと戻ってきた。


 事務所に入ってくるときに思い切りるり子姉さんに蹴飛ばされたらしく、かなりつんのめって登場した最所は、私が一人でいるのを見てちょっと拍子抜けの表情になったのだが、とりあえず――ご無沙汰してます――と一礼する。

 

 ◆

 

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