12.白黒.3
「失礼ですけど……」
私はその人に声を掛けた。
「その猫ちゃん、産まれたときからずっといるわけじゃないんですよね?」
突然会話に割り込んだ私に二人のおばさんはいささか驚いたようだったが、
何度か待合室で見かける顔でもあり笑顔で
「そうなのよ。その子の弟がね、正月過ぎにどっかで拾ってきた猫なのよ。
――ったく、捨てるんなら最初から飼うな! よねぇ」
「本当ですよね。ところで何色の猫ちゃんなんですか?」
私は笑顔を絶やさないようにしながら再び尋ねた。
「それがねあなた、真っ黒な猫。器量良しでね。
えいこちゃんが胸に……猫用のバンダナっていうのかしら? よだれかけみたいのを何枚も作ってやってね。
そりゃあ可愛いのよ。
ったく、こんなに大切にしてもらってるところ前の飼い主に見せてやりたいもんだわ!」
「まったく本当ですよね。前の飼い主にぜひ見せたいですよね」
私は熱心に相槌を打ち、
「なんだか猫ちゃんの体調が悪いって仰ってましたよね? こちらの病院へ?」
「それなのよぉ。隣町の病院なのよね。
あそこはヤブだからやめときなさいって言ってるのに。
――あら、ここも薮下さんだったわ」
おばさんはケタケタ笑い、
「ここは薮下先生だけどヤブじゃない。
隣町のは馬井先生だけどヤブなのよ。
ああ、ややこしいったらありゃしないわね」
私も同じようにケタケタ笑う。なかなかシュールなジョークだ。
「じゃあ、姪御さんたちも隣町にお住まいなんですね?」
さり気なく探りを入れてみた。
「ええ? ええ、まあ隣町というかこの町の外れていうかね。
ちょうど際みたいなところ。
だからってヤブ馬井のとこへ行かなくってもねぇ」
「そうですとも! ぜひうまい薮下へ行くように言ってあげてくださいな。
うちの猫ちゃんだってこちらの先生のお陰で命拾いしたんですから」
「そうそう、なんでもライフル銃で撃たれたんですって?
ひどいことするじゃないの!」
と、デブ猫おばさんが声を張り上げる。
「いえ、ライフル銃ではないですけど……ね。
でもなにか吹き矢みたいなもので」
私は声を潜めた。
「何かご存知ありませんか?
最近そんな被害というか、同じような目に合ってしまった子の話し」
「そういえばヤブの馬井先生のところで、やっぱり矢みたいなもので羽をやられた水鳥が来たってえいこちゃんが言ってた気がするわねぇ……」
チワワおばさんがそう言って話に加わった。
つづく
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