ひいふうみい
さてさて、ボスと正式に親子になった私たちだったが、明け暮れに特別の変化があったかと言われると殆どなかった。
相変わらず「ボス」「ひなちゃん」「ふたちゃん」「みいこさん」とお互いを呼び合い、みんなでわいわいとごはんも食べ、そしてお互いの自由時間を拘束し合うこともなく。共同生活はボスが倒れたあと充分予行練習は積んでいるし、そもそも逢摩堂に三人揃って入ったときからずっと明け暮れを共にしてきたのだから、気心はとっくに知れている。
しかし問題がひとつあった。それはボスの財産のことである。例の宴会が終わってから二、三日して私たちは最所、京念と向き合い、その資産内容をじっくりと聞かされた。
歴代の当主に比べてお金への執着心がかなり薄いとはいうものの、示された内容は私たちが今まで生きてきた世界で培われた経済感覚では想像すら難しいものだった。
ひなこが言ったものである。
「商店街の大根が一週間で五十円も値上がりしたらぴんと来るんでしょうけど……」
ふたばも声を揃える。
「金庫の中のお金だって自分のものじゃないと思っているから『お金』の形をした物体であって、お金と思ってない――ぴんと来ないんですよね」
私だってそうだ。億単位の汚職とか言われても、別世界の別感覚で、ふーん、としか思えない。正直腹が立つという次元の問題ではないのだ。
こんな私たちなのだから、最所と京念はかなり粘り強く説明をしたのだけれど、その反応の薄さに途中でほとんど諦めの顔になっていた。
ふとふたばが呟いた。
「こんな形にならなかったら、これ、どうなっていくはずだったんですか?」
ひなこも私も
「そうです。私たちが養女にならなかったらボスの財産はどうなるはずだったんでしょうか?」
と続けた。
「うーん……それは、ですね」
京念が資料をアタッシェケースから取り出す。
「このような形になります。いくつかのシミュレーションを繰り返し、この形がベストであろうと逢摩氏もほぼ納得された内容です」
その言葉に間髪入れず、ほぼ同時に私たちは叫んだ。
「そうしてください! その形で進めてください!」
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