ひいふうみい3
さて、しかし大きな変化がなかったわけではない。
それは私たち三人に次から次へと縁談話が持ち込まれてくることだった。全くどこで情報を仕入れてくるものか。お相手も年齢、職業、国籍が多岐に渡っており、始めのうちこそみいこさん、ひなこさん、ふたばさんへと各々名指しであったが、しまいには「三人のうち、どなたでも」ということになり、ボスの娘になるということはこういうことなのだなと改めて驚いたものだった。
もちろん中には心から私たちの行く末を案じての親切もなくはなかったが、ほとんどは逢摩家の財力を一番の魅力として持ち込まれたものと見える。
「ったく、お見合い話なんて一生来ないと思ってましたよ」
と、年齢的に一番若いふたばがせっせと夕食材料となる大根の葉を刻みながら、呆れたように言った。
その日は、ふたば宛に三通の見合い話が持ち込まれたのだ。もっともひなこにも二通、そして私には一通、そして小雪にまで縁組の話が舞い込み、始めのうちこそニヤニヤとその様子を眺めていた最所と京念だったが、ここのところ封書やら写真をちらりと見ただけで殊の外露骨に不快な表情になるし、今日の小雪に至っては怒り心頭といったところだった。
「けしからん! 実に許しがたい!」
温厚な京念が小雪を抱きしめながら憤慨していた。
「そうだぞ小雪。お兄ちゃんは絶対お前を守るからな。まったく、許せん!」
と、最所も京念の腕から小雪をもぎ取り、頭を撫でる。
お父さんとお兄ちゃん? いつの間に? ツッコミどころは満載だったが、輪をかけてボスが激怒しているので私たちは笑いを噛み殺すのに苦労した。
これらの話はほとんどボスが門前払いという形でやんわりと、時として断固として断ってくれており、直接私たちが実害を被るといったことは無かったのだが、時として
「どうじゃ? この話は?」
と意向を聞かれることもあった。そんな中に一件二件「会うだけ会ってみてもいいかもしれんのぉ」とボスが口添えする話もあり、考えてみてごらん、と判断を任せてくれる。
たしかに、とっくにトウが立っている私以外はひなこ、ふたばいずれもどんな出会い方であろうと良いご縁があれば、それはそれで大いに考えるべき必要がある。
もっとも二人には全くその意志が無いようで、いつも一笑に付してしまうのがほっとするような心配なような複雑な思いがするのは、やもめの父親と婚期を逃した長女の世間並みの感覚だろうか。
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